アぺリティフ

90歳の老夫婦に感心することはたくさんあるのだが、そのうちの一つは、アペリティフをよくとることだ。アペリティフ=食前酒である。代父いわく、「ポルトー(酒)は、代母にとって最高の薬なんだ。」

毎日でもないのだが、私が滞在中、昼ごはんの時間になると、代父は台所で支度をするが、ポルトー酒の瓶を片手に、「お薬の時間だよ」とのたまう。代母はサロンに座っていて、「またなの」と言うような表現をするが、拒否はしない。私は代母が大好きなpetits gateaux(おつまみ)の準備をする。日本から持参したおかきやおせんべいは代母の大好物である。ちょっとしょうゆ味のおかきは、来客時にも大好評である。

特に日曜日は、ごミサから帰宅して、おひるごはんまでの時間がちょっとあくので、アペリティフにつかう時間も長い。小さなグラスに1杯のポルトー、あるいはもう少しアルコール度の低いミュスカなどを、なめるような感じで飲む。アペリティフは、食欲をますための儀式という。

フランス人だけに限らないとおもうが、外国での食事にアペリティフはつきものだ。今でもそうなのだが、食前酒をいただくというのに、なかなかなれないでいる。結局はアルコールに弱いことに尽きるのだろうが、アペリティフで、シャンペンやポルトーなどを1杯ならいいのだが、お代わりなどしていると、酔っぱらってしまう。簡単な食前酒なら乾き物、ちゃんとした食事に招かれると、手を加えた品が出される。

だいたい8時くらいに招待されているが、1時間はアペリティフの時間になる。日本の感覚でいえば、7時には夕食なのに、8時に集まって、それから1時間、おなかにもたない軽いものを食べつつ、シャンペンでものんでおしゃべりというのが、場がもたない。テーブルにつく食事の場合、話せる人は、両隣、あるいは対面の人くらいだから、アペリティフの場で、それ以外のひとたちとも歓談できるいい機会なのだが、それが重荷にもなる。

先日の90歳のお祝い食事会では、延々とアペリティフが続き、食事はないのかしらと思ってしまった。
食事は食事で時間はかかるし、アルコールの点でも、ワインが出て、アペリティフ+ワインとなり、いよいよ酔っぱらっていく。このごろ、食後酒(ディジェスティフ)までいくことは少なくなっているようだが、これだけのアルコール攻めに対抗するには、若い時からの訓練が必要だ。

90歳という高齢になっても、アペリティフを楽しむ、そんな生活をするために、と帰国してからも、つれあいとともに、食前に、ゆったりした時間をもつようにしようとしたが、おなかがすいたから夕食を早くとか、お互いに一刻も早くテレビの前に座りたい、と、アペリティフは成立しない。食器洗い係りのつれあいに言わせると、洗い物が増えることも難らしい。生活を楽しむ、そんな境地になかなかなれない日本人である。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。