90歳夫婦の老老介護

わが家でも、つれあいが病気がちになって、介護ということばが、決して遠いものではないかも、と思い始めたのだが、今回、フランスで、初めて介護の実態を実感した。

夫90歳、妻90歳となると、超長寿のジャンルにはいるだろう。その年齢の二人が、自宅で支え合いつつ暮らしている。支えつつというのは、少し誤っているかもしれない。妻は、目があまり見えず、動きが不自由である。夫は耳が遠いくらいのもので、頑健そのものだ。したがって、支えているのは夫で、妻はその保護のもとにくらしている。

夫は昔は大会社の社長経験者、仕事場でも秘書がいて、指示するだけですんだ。ところが、妻が不自由な状態になったとき、家事の全てをその背に負うことになった。家事の手伝いはいる。現在では週3日、3時間ずつお手伝いさんがくる。彼女は、台所をかたづけ、ベッドメークをし、食洗機から夜のうちに洗われた食器を出し、洗濯物がたまっていれば洗濯し、干しあがったものはアイロンをかける。日によって、クリーナーをかけたり、窓ふきをしたりするが、昼食の下ごしらえまですると、だいたい時間切れとなる。

夫は午前中に買い物をし、昼ごはんを作る。フランスでは昼ごはんがメインなので、前菜、メイン、(チーズ)、デザート、食後のコーヒーがこの家の典型である。
何を食べるかを考えて買い物をする。残り物をどう処理していくか、主婦の仕事は在庫管理という人もいるが、彼は、それも考えていかなければならない。

起床は8時。朝食はコーヒーとパンだけ。以前はチコリ入りのコーヒー(まずい!!)だったが、今はネスカフェの粉末ですませている(すごい進歩!!)。パンは前日の残りのバゲットをトーストし、バターをつけ、自家製ジャムをたっぷりつけて食べる。

朝食後、寝室についたバスルームでいわゆるトワレット(歯磨き、洗面、トイレ、化粧なり身支度)をする。夫は動きの不自由な妻のトワレットを介助し、身支度を整えてやる。ストッキングも医者の指示で弾力性のないものなので、はかせるのはとても大変だ。

日本人の私には、なかなか理解できないことだが、きちんと身支度を整えれば、靴をはく。家の中だし、スリッパのままでいてもよさそうなものだが、昼間は靴の生活なのだ。これがまた大変な作業で、はかせる方も膝まづいてすることになる。

歩く時にはそばから支え、また起き上がるときも介助しなければならない。妻は身支度が終わると、ほとんどの時間をサロンですごす。

介助機関で働く人は、腰痛が持病と聞いたが、実際にやってみて、よくわかった。大人の体の重いこと、その体を静の状態から動に移すとき、大変な力がいるのだ。それを90歳の夫がやっている。

60歳代の私は、もう料理もいや、掃除もしたくない、と家事放棄を願っているのに、90歳の夫は、家事こそお手伝いさんがいるけれど、それは一部にすぎないし、ほとんどのことを一手に引き受けているのだ。5月は資産税(ISF)の申告の時期でもある。税理士に頼ることなく、自分でその書類を作成し、申告・納税をすます。
さらには頼りにならない子どもたちの分の書類作成に助言もする。

招かれれば会食にも出席し、また自宅に客を招待する。お客を招いての食事の支度は、やはり夫がする。オペラの定期会員でもある。
これがフランスの90歳!!もちろんこれは一例にしかすぎない。妻の兄は95歳、彼は自分の妻を3年前になくし、一人暮らしだが、5人の娘がシフトを組んで毎週末くるし、料理人、家事手伝い、介護人が毎日きている。
また85歳の妹は、完全にアルツハイマー病で、自宅にいるものの、胃ろうをつけ、介護人は2人、料理人に家事手伝いがいる。

私の母は80歳ころから、老健施設に移り、そこで89歳の人生を終えた。90歳でこれだけの自立をしているのは、例外的な存在に違いない。夫の知力・体力が残っているからこそ可能な生活だが、これがなるべく長く続いてほしいと祈っている。
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